サービス業にとって、クレーマーの存在は本当に頭が痛くなる問題です。最近はネット社会になり匿名での誹講中傷が簡単にできるようになってからというもの、その悪質さに拍車がかかっています。
毎日のようにSNSを利用した誹謗中傷が拡散され、それをワイドショーやヤフー・ニュースなどが取り上げるので、クレーマーは面白がってさらに悪質なことをやらかすので収まる気配はありません。
思い返せばインターネットが普及する前に問題だったのは、暴力団対策です。暴力団対策法が施行されていない頃は、飲食店の多くが地域の暴力団に、泣く泣く「みかじめ料」「所場代」を払っていました。嫌がらせをされるくらいなら、お金で解決するしかないとみんな諦めていました。
これは不当な要求ですから払わずにいると、強面の客にビール一杯で閉店時間まで居座るなどの嫌がらせをされたり、暴力団事務所に軟禁されたりという酷い自に遭うことになります。現在では暴力団対策法のおかげで、そのようなことはほとんどなくなりました。
今最もやっかいなのは、普通に来店する一般顧客を装ったクレーマーです。
法外な金銭を要求するクレーマーへの対応
現代では暴力団より、一般人のクレーマーのほうが悪質だといえます。
クレーマーも、もともとは普通の来店客だったのです。しかし、ある時にふと小さなクレームを親切心から指摘したら、店舗側からお詫びとしてお金を渡されたので、それに味をしめて、店舗内の汚点を探して指摘を繰り返し、金銭を要求するようになり本物のクレーマーとなったのでしょう。
それがエスカレートしていくと、故意に不当なクレームを言って金銭を要求するようになります。
クレーマーの常套手段は、最初に法外な要求を出しておいて、あとから値引きして落としどころを探そうとします。
「あんたのとこの不手際で仕事に穴があいた。300万円保証しろ」などという法外な要求を突きつけて、とことん相手を困らせしつこく追い詰めます。そして、ある日、「あんたの立場もわかるし、こっちも疲れたから20万円でいいよ」といってくるわけです。こちらは連日の誹誇中傷や法外な要求に疲れ果てているから、「この面倒から解放されるなら、20万円くらいいいか」と、つい心が動いてしまうのですが、これをやっては絶対にいけません。
相手は因縁をつけて3万円でも5万円でも取ろうと考えていたわけですから、これに応えてしまっては同じことが何度も繰り返されます。
また、小さな揚げ足とりをして、「前回は110万円払ったじゃないか。同じことをしておいて何だ」といわれたら事態は悪い方向へいくばかりです。
では、どうすればいいのか?
クレーマーには、徹底した客観的な視点に立って冷静に対応します。
必ず準備してほしいのが、いつでも録音や録画をできる状況を作っておくこと。防犯カメラ、スマートフォン、ボイスレコーダーなど、なんでも良いので「証拠を残す」ことを優先してください。電話も録音できるような設備を付けておきましょう。
クレーマーから電話がかかってきたら、すぐに録音を始めます。不当要求の証拠になるのはもちろんですが、録音することで自分自身の気持ちも引きしまります。相手はわざと怒らせることを言うのですから、クレーマーとの電話では、つい頭にきて気持ちが昂ぶります。そんなときでも、「この話は録音しているぞ」と自分に言い聞かせれば気持ちが落ち着きます。
相手は、とにかく文句を言って、こちらが金銭を支払う提案をしてくるのを待っていますが、どんなことをいわれても、「お詫びにうかがいます」としか言わないこと。
すると、相手は来られるのは嫌ですから、「そんなのはいいんだよ。ただね、仕事に穴をあける結果になっちゃったから、せめて100万円は保証してもらわないとね」と、やがて本当の要求をぶつけてきます。
この言葉を相手に言わせるまで録音をするのです。このときになって、「お客様との会話は録音させていただいておりますが、ただいまのお客様からの法外なご要求につきましては、不当要求防止委員会に上げさせていただくとともに、警察にも相談させていただくことになりますが、よろしいでしょうか」といえばいいのです。
これで電話はぴたっと来なくなります。クレーマーに屈する必要など絶対にありません。サービス業のプロであるなら、他のお客様のためにも、クレーマーのいいなりになってはいけません。
一流店は絶対にクレーマーに金銭を渡さない
クレーマーでない普通のお客様のクレームに対しては、どう対処したらいいのでしょうか。
相手がクレーマーでなければ金銭を渡していいのでしょうか。これも絶対にNOです。
相手がクレーマーでなくとも、クレーム対応は決して楽しいものではありませんから、どうしてもその場ですぐに解決したくなってしまいます。そのために、いまも多くの店が、クレームを上げたお客様に金銭を渡して即時の解決を図っていますが、これをやってはいけません。
お客様に対して気持ちで向かうのではなく、金銭で解決してしまったことをきっと後悔することになります。
また、受け取るお客様のほうも、困惑してしまうでしょう。そのお客様はクレーマーではないから逆に罪悪感に囚われてしまいます。「私は金銭が欲しくていったのではないのに、結果的にこんなことになってしまった。私はどうすればよかったのだろうか」
こうして、金銭を渡してしまったお客様は、その店に来づらくなって、ほとんどのお客様は二度と来てくれることはありません。
金銭で解決するクレーム対応はやはりおかしい。真のサービスではあり得ない
たとえば、ホテルオークラでは、お客様の洋服にシミをつけてしまったときには、京都のほうに一軒だけある「どんなシミでも落とせる専門店」にお客様の服を出し、シミを落としてから返すそうです。服を新調してもらうお金より、染み抜き専門店の代金のほうが高くつきます。それでも「お金を渡さない」方法を選ぶのです。
様々な手順を考えたら、まとまったお金を渡すより高くついても、それをやるのが本当のサービスなのです。老舗が老舗として多くの常連客をつかみ、かつそのほとんどが優良顧客であるのは、こういった理由があるからです。
大切なお客様に対してお金を渡した瞬間から、その店は一流店ではなくなります。ホテルは一流ホテルではなくなります。そして、同時にお客様のことを深く傷つける結果にもなるのです。
大阪のリッツカールトンでは、クレームをつけたお客様ほど、その後の優良顧客になるそうです。
クレーマーではない、一流ホテルを愛用するようなお客様がクレームをつけるということは、それなりの理由があります。しかも、その理由とは普通のホテルにとっては厳しすぎる基準かもしれません。
その厳しい基準のクレームにきちんと対応していけるということは、サービスのレベルがさらに上がることになります。しかも、クレームを上げた後味の悪さを、お客様に決して味わわせることがなければ、そのお客様はリッツカールトンのファンにならないはずがないのです。
これはリッツカールトンに限ったことではなく前述したホテルオークラはもちろん、一流ホテルならば同様でしょう。
一般の飲食店でも一流ホテルの対応を参考に真似できれば、お客様からの信頼もかなり厚くなります。
お出しした食事やお酒について、お客様から不備のご指摘があれば、すぐに同じものをつくり直してお出しします。これがすべてです。
多くの店がやりがちなのが、「本日は誠に申し訳ございませんでした。ご迷惑をおかけいたしましたので、本日のお代はちょうだいいたしません」というものです。
たとえば、お客様が、「もうつくり直さなくていい。不愉快だから帰る。チエックしてくれ」といわれたとしても、その料理の分を引いた残額をきちんといただくこと。召し上がっていただいた分までの料金をただにするということは、お金を渡しているのと変わりません。
それは、お客様に対しても失礼な対応だと思うのです。
クレームに対しては、その原因を解決するというのが本筋です。
以上「悪質なクレーマーを恐れるな!お金で解決するな!店側は客観的な視点で冷静に対応することが大事」でした。